スパイス小僧インタビュー。【後編】

スパイス小僧インタビュー。【前編】はこちらから。

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-今後カレーを作っていく上で、自分の中での課題みたいなのはありますか?

スパイス小僧:それはねー、ある。結局僕はカレーの仕事をしながらもカレー屋だけをやっているわけではないから、もし今のお店でカレーをもっと出すってなったら、僕だけがカレーを作れるのでは意味がないと思う。もちろん僕がいるときだけちゃんとしたのを作って提供するのもやり方の一つではあるけれど、今のお店を拠点にし続ける場合、他の人にどうやってカレー作りを教えたらいいのかというのは課題の一つかな。あるいは、難易度がそこまで高くないけれどめちゃくちゃ美味しく作れるレシピを作っておくとか。今まで何回かチャレンジしているけれど、なかなかうまくいかなくて。そこはやっぱり難しいかな。

-自分が作るのと他の人にそれを再現してもらうのは、まるで別次元の話ですもんね。

スパイス小僧:結構むずい。どこかで妥協点を作ったりしているけれど、それでも。今はNui. でベジタリアン向けのカレーを一種類だけ置いてあるんだよ、これは今後完全なヴィーガン向けに改良しようという動きもあるんだけど。それで現時点でも実際にベジタリアンの人に食べてもらって感動してもらうことも多くて、それは本当に嬉しいんだけど、やっぱり自分の好みでいったらもっとこうしたいという部分はあって。皆が作れてなおかつ時間もそこまでかからないというギリギリのレシピではあるけれど、葛藤はあるというか。

-妥協しなくてはいけないけれど、ギリギリまでこだわるという。

スパイス小僧:一回の仕込みでもやっぱりスパイスを使っているおかげで一週間くらいもつんだけれど、日毎で香りも違うし、それを自分が全部見れないできないっていうのもあって。本当だったら毎朝確認して香りが飛んでるからこのスパイスを足そうかなとか、ちょっと煮詰まっている感じがするから加水して状態を見ようとかしたいけれど、全て管理するってのはやっぱり難しいんだよね。そうなってくると、そういうのが必要じゃないカレーのレシピを作りたいってなるけど、それがまたさらに難しいっていう。

-確かに・・。

(カレーと向き合うスパイス小僧の眼差しは、真剣さそのものだ。)

スパイス小僧:もちろんカレーだけじゃなくてどの料理でもこの葛藤はあると思うんだけど、やっぱり自分の中でカレーっていうのは大事にしていて、だからこそもっとこうしたい・こうしてほしいというのは欲としてあるわけで。そこはすごく葛藤しているかな。

-Nui. でのカレー以外の業務に関して、楽しいことや大変なことはありますか?

スパイス小僧:Nui. っていうのは宿業であって、飲食業でもあるけれど、とにかく色んな人が集まる場所で。若い人が多いけれど、年配の常連さんも案外いたり、朝と夜で来るお客さんの層も全然違うし。色んな人に出会えるし、仕事をしていてもやっぱりお客さんとスタッフの距離が近いから、ここで働いているおかげですごい仲良くなれる友達もたくさんできたし。カウンターの仕事だから、この3年で出会った人の数だけでいうと本当にもう相当なもので。

-そうですよね。

スパイス小僧:そういう意味でもすごくいい刺激になったかな。やっぱり出会う人たちの幅が広いっていうのは、一番刺激的なことかもしれない。これからもそうあり続けてほしいお店であり、そうし続けたいという思いもあるから、ひとまずは帰って来るのが楽しみかな、と。

-オーストラリアに行っている間にやりたいことだったり目標だったりというのはありますか?

スパイス小僧:何はともあれメインは英語圏で生活をする、ということかな。語学力を上げるのは目的の一つであるのは確かなんだけど、ではなんでオーストラリアを選んだのかというと、オーストラリアの食文化がすごく興味深いな、と思っていて。やっぱりオーストラリアは移民の国で、色々な文化がかなりミックスされていると思うんだよ。例えば中華系の奥さんとフレンチ系の旦那さんがいてオーストラリアの食材を使って料理をしたら他にはない中華とフレンチのミックス料理みたいなのが普通に出てきたりするわけで。カフェとかを見ていても、タイ料理とイタリアンのコラボのお店なんかも普通にあるし。そういう、フュージョン料理っていうのが今のうちのお店にもすごく合っているものだと思うから、それを学んできたいなっていうのはある。

-確かに、オーストラリアはフュージョンのイメージがありますね。

スパイス小僧:あとオーストラリアは朝ごはんもすごく美味しそうっていうのもあって、それも楽しみ。日本も朝ごはんを大切にする文化がないわけではないけれど、外に食べに行くとすごい安い印象がある。でもオーストラリアの人は朝ごはんにもしっかりお金をかけるというか。その文化の違いにも触れたいなっていうのがあるかな。カフェ文化ももちろん圧倒的に進んでいるし。

-語学と食文化というのがメインの二つということになるんですね。絶対オーストラリアの食文化は面白いと思います。

スパイス小僧:そうなんだよね。インスタとかを見て調べていても行きたいお店がすごく多いから、どこか当たればいいなというか。もちろん行ってから履歴書を出すわけで、何が起こるかはわからないけれど。

-食でいうと、カレー以外に好きな料理は何なんですか?

スパイス小僧:カレー以外だと、ハンバーグとかかな。パスタも好き。子供のときに好きだったものは大抵好きなんだよな。

-カレー以外によく作るもの・作りたいものは何なんですか?

スパイス小僧:それで言うと、日本酒がめちゃくちゃ好きで、今も日本酒のアテはよく作ってる。なんなら今Nui. のメニューの中にもそういうものがあって。最近だと例えば、帆立小柱のにんにく醤油漬けとか。そういうちょっとしたおつまみは作っててもすごく楽しいかな。

-そういうアテを作るときって、カレーを作るときの作り方やマインドとは違いますか?

スパイス小僧:いや、そうでもないかも。特に保存がきく系の料理は、カレーに近しい部分があると感じる気がする。もちろん全然違うものなんだけれど、そういう違う料理を作っているときこそ、カレーに活かせるものもあるわけで。Nui. のスタッフにも元々イタリアンで働いていた人が以前いて、その人が作ったカレーもめちゃめちゃ美味しかったんだけど、自分と料理のベースが全然違うってのは面白かったな。イメージだけど、カレー屋とかラーメン屋ってカレーとかラーメンをとことん研究したい人がやっていることが多い気がする。でもしっかりイタリアンとか和食とか中華とかをやってきた人がカレー屋とかラーメン屋を始めたってなると、また違ったテイストになるんだよね。それはNui. に入って学んだことというか、その前の3年間はそれこそほとんどカレーしか作ってなかったから。Nui. はカレー以外の料理ももちろん多いから、他の料理を通して調理においてこれをやればこうなるっていうのを学んだときに、自分のカレーの幅が広がったんだよね。

-そもそも色々なカレーがある上に他の食とも関連しやすくて、その上異なるバックグラウンドをもつ作り手の幅によって、さらにカレーの多様性が加速している感はありますね。

スパイス小僧:カレーってななんでも合うというか、どんな食材でもどんな調味料でもなんでもカレーにできちゃうっていう感じはあるからね。

-確かに。なんでもあり感はありますよね。

スパイス小僧:だから他の料理も学んで引き出しが増えると、その分カレーに使える武器も増えるし。さっきの時短の話だと、一晩煮込んでとかそういうので確かにうまくなりやすいけれど、短時間でも美味しいカレーも全然作れるわけで。時間をかけずにどうやって美味しいカレーを作るか、ということもすごく考えるようになった。だから最近は玉ねぎを茶色になるまで炒めることも実は少なくなったし。

-そうなんですね。

スパイス小僧:ある程度辛さが飛んだらそれでっていう感じで、逆に香ばしさとか甘さは他の食材・調味料で補う、みたいな。例えば最近は玉ねぎを炒めることで出るあの色とか香ばしさは、スパイスをフライパンで炒ってそれを入れことで時短になる、みたいな。甘さに関しても、完全に玉ねぎの甘さと一致しないまでも、色々な角度から甘さを加えればいい感じの甘さになる、みたいな。そういう時短の部分も、かなりNui. で学んだと言えるかもしれない。

-なるほど。重要なアドバイスとしてこちらも同居人に伝えておきます。

スパイス小僧:笑夢で働いているときは仕込む量が多くて、一食のカレーに5時間とかかけることもあったからね。あるときは1日に6種類500人前のカレーを仕込んだこともあったし。

-ええ!?

(バナナとクルミのバターチキンカレー &アサリのトマトマサラ。スパイス小僧によるCITANランチカレーの中でも、特にインタビュアーの記憶に残っている思い出深いカレーである。)

スパイス小僧:ほぼ丸一日仕込んでた、みたいな。今はそんなに大きいサイズの寸胴もないんだけど、あれは本当に大変だったな。

-そういう風に大きい寸胴で大人数分のカレーを作るときと、少人数分のカレーを作るとき、作り方と仕上がり方はやはり違うものですか?

スパイス小僧:全然違うね。

-そういうとき、できるだけ一緒の味を作り上げようと思ったら、どうするんですか?

スパイス小僧:もうそれは状態を見ながら、ってことになるかな。スパイスも同じ比率じゃなくなるし。水と塩の場合同じ比率なら量を増やしても同じ濃さになるものだけど、どうもスパイスはそんな単純じゃないというか。そこまで量を加えなくても香ることもあるし、もちろん火の入り方でも変わると思うし。そのメカニズムは解明しきれていないけれど、仕込む量が変わるとどうやら変わるらしいぞ、と。

-そこはもう、感覚に頼りつつこまめに味見しつつ、みたいな。

スパイス小僧:そうだね。蒸発する水分量と煮こむ時間も違うし、油の量とかテンパリングの時間とかでも変わるし。だから結構違うんだよね。実はこれがレシピ化しない理由にも繋がっていて、前のカレー屋にいたときはルーティンも多かった。それで東京に出てきてすごく感じたのは、特に日本人がやっているお店には日替わりのカレーをやっているお店も多いってこと。最近は間借りカレーも多いし。やっぱり毎回毎回違うカレーを作っている方が自分でも楽しいし。

(スパイス小僧はNui. の系列店で入谷にあるtoco. でも
毎週末に週替わりのカレーを出している。)

スパイス小僧:それは今このペースでカレーをやれている大きな楽しみというか、同じカレーを毎回作り続けるなら一つのレシピが必要だとしても、毎回違うカレーを作りたい気持ちも強いからね。toco. では毎週違うカレーを出しているんだけど、来週何にしようかなって悩むのも結構楽しいし、例えば常連さんがあのココナッツのチキンのカレー久しぶりに食べたいってなっても、レシピを残していないおかげで毎回作るときに新鮮さがあるし、なんなら前と同じカレーにはならない。ライブ感覚でカレーを作るっていうことが、楽しみに繋がっているのかも。

-なるほど。ライブ感覚か。楽しみながら作れるからこそ、美味しいものができるっていうのは納得ですね。カレーって国民食だし、もはや混沌とするくらいなんでもありのカルチャーですけど、全員が美味しいと思うカレーは存在すると思いますか?

スパイス小僧:ないんじゃないかな。味の好みがあるわけだし。

-これまで自分が作ったカレーをディスられたことはありますか?

スパイス小僧:あるある。でもそういうときは大抵自分でも何かしら納得していないから、バレるんだなと感じたね。もちろん美味しくなくて全部捨てたこともあるし。自分の中で納得いかなかったときは、もう絶対そうやらないようにしようと思ったことがあるし。あと美味しいカレーを作ろうと思ったら、特定の誰かに食べてほしいと思って作っているかもしれないな。

-特定の誰かをイメージ。ペルソナ的なことですか。

スパイス小僧:今回作るカレーは誰々が食べたいって言ったからその人が美味しいって思ってくれるように作ろう、みたいな。もちろんそれで食べてもらって前の方が美味しいって言われることもあるけれど、そうやってイメージして作ると納得して作れることも多いし、イメージした人以外に食べてもらっても美味しいって言われることが多いかも。

-万人向けではないからこそ、ブレない美味しいカレーができると。色々なカレーがある中で作るのが一番難しいカレーは何ですかね?

スパイス小僧:一番難しいの?チキンカレーじゃない?チキンカレーはもう、正解がわからない。そのときの気分でサラサラがいいときもあれば甘めがいいときもあるし、こってりさせて食べたいときもるし。人によって想像するスパイスチキンカレーってまた違うと思うし、だからチキンカレーだけを持ち寄る会みたいなのもやりたいなと。

-色々なチキンカレーがあって、正解がわからないからこそのチキンカレー会。面白そうです。

スパイス小僧:もう本当にチキンカレーだけ、で。多分全く違うカレーが色々出るんだろうな、と。そういう意味も含めてチキンカレーは作っていて楽しいかも。あと、欧風カレーも難しいな。欧風カレーは実はうちでレシピ化しようと思っていたことがあったけれど、難しかった。自分がどういうカレーを作りたいのかわからなくなった、というか。そう考えると、やっぱり皆が知っているものほど難しいかもしれないな。皆好きなものほど実はすごくハードルが高くて、でもだからこそ作るときには常に驚きがあるようなカレーっていうのを毎回意識するんだよね。

-その意識こそが、美味しくてかつオリジナリティのあるカレーに繋がっているんですね。カレーを好きな人はかなり多いと思いますが、男性と女性ではどちらが多いんでしょうね?

スパイス小僧:最近は女性が多い気がするな。でもカレーのスパイスのこととか自分でやり始めてハマって質問してくる人は、男性の方が多いかな。

(インタビュアーの同居人ユウダルマンはスパイス小僧のカレーに衝撃を受け、いよいよ本格的に自分でカレー作りを始めてしまった一人である。変な帽子を被ってやがる。)

-うちのユウダルマン (同居人)も含め・・

スパイス小僧:そういう人たちからはすごい色々なことを聞かれるというか、なんでそんなこと知ってるんだろうっていう質問がくるというか。でもこれもカウンター越しに接客しながらカレー屋やっている醍醐味の一つというか。カレーを通してコミュニケーションがとれる、カレーコミュニケーションみたいな。

-カレーコミュニケーション!いい言葉!

スパイス小僧:そう、カレーコミュニケーション。実は前の店の社長の受け売りなんだけどね(笑)。でもそれは自分みたいなスタイルでカレー屋やっている楽しみではあるかな。

-質問とかアドバイスというと、家カレーを作っている人に一番最初にするアドバイスは何ですか?一番初歩的で、大事なことというか。

スパイス小僧:スパイスの種類はそんなに入れない、ということかな。20種類のスパイスをブレンドとかって結構よく聞くけれど、スパイスの種類をおさえた方が個性的なカレーは実は作りやすい。だから最初は、例えばクミン、コリアンダー、ターメリックになんか辛さとしてカイエンペッパーとか入れたり、これくらいで十分だと思う。

-20種類のスパイスって確かに響きはいいけれど、実はっていう。

スパイス小僧:もちろん美味しいカレーはできるんだけど、個性がなくなっちゃうというか。それじゃ面白くないし。スパイスの種類が多い方がバランスが取りやすいのは事実で、だからこそガラムマサラとかカレー粉があるし。まあ厨房には絶対あってほしい調味料なんだけどね。

-バランスのためにはやはり活用しやすいんですね。

スパイス小僧:でもガラムマサラもメーカーによって全然違うんだよね。自分も3種類くらいを使い分けていて。だからガラムマサラ調べ始めてカレーを作るとまた面白いし、なんなら自分で調合しても面白いし。もはや通でしかない領域だから、そこまでやり始めたら自分で店出した方がいいけど(笑)

-確かに(笑)カレーに対して相当なこだわりをもつスパイス小僧が色々な食文化のあるオーストラリアに旅立つということなんですが、オーストラリアでは今東京で流行っているようなスパイスカレーは受け入れられると思いますか?

スパイス小僧:うん、意外と皆好きなんじゃないかな。

-そういうお店はすでにあるんですかね?

スパイス小僧:あまり聞いたことはないかもしれない。でも自分がちょっと調べていたお店では、タイ料理とフレンチのミックスのお店で常にタイカレーとかバターチキンとかのカレーを置いているらしかったな。だからカレーという料理はあっちでも普通にあるものな気はする。もちろん実際にあっちに行ってみないとカレーがどういう立ち位置なのかはわからないけれど。

スパイス小僧:日本ではカレーはやっぱり国民食なんだけど、向こうでは流石に国民食ほどの位置は確立されていないと思う。でもそもそもイギリスの文化がしっかり根付いているから、カレーの文化はありそうだけどね。

-今日本には色々なカレーがありますが、カレーには自由と多様性があると思います。そのカレーの多様性の中で、自分のカレーの位置付けはどう自覚していますか?

スパイス小僧:どうだろう。まあ創作カレーではあるけど。位置付けってどういうことだろう。

-こちらも質問していて何を指すのかはわかってないです(笑)なんか色々なカレーがある中で、今作っているカレーをご自身でどのように見ているのかなって。

スパイス小僧:今の流行りのカレーには近いと思っている。一昨年去年くらいから間借りカレーとかがすごくブームだけど、スパイスをしっかり使ったものが流行っているかなと。それでそれは僕が昔からやってきたカレーにすごく近くて、だから流行りが廃れようが自分はそういうスタイルでやっていくと思うし。

-特に流行には左右されないと。

スパイス小僧:でも、いわゆるカレーのイメージとは違う食材をメインに使ったカレーを作り続けたいなとは思ってて。CITANランチをやっていたときも、フルーツが隠し味っていうよりはフルーツがメインくらいのものも出していて、今後もそういうのはやっていけたらな、と。

-確かにスパイス小僧のカレーは、フルーツの印象が強いカレーですよね。色々なフルーツを使っていると思うんですけど、使い分けはどんな感じですか?

スパイス小僧:基本的には甘さの度合いかな。フルーツによって甘さの度合いは違うから、パイナップルとかを入れても面白いし。もちろん甘さだけではなくて香りとか酸味も違うし。その甘さ・香り・酸味をカレーに合わせてどうやって加えるかを変えるかな。

-まずカレーをある程度作ってから、それぞれを入れて味見するみたいな感じですか?

スパイス小僧:というよりも、甘ったるくしたいなら白桃・ちょっと爽やかならみかん・酸味が強いならパイナップル・濃厚な甘みと香りならバナナ、とか自分の中である程度決まっている部分はあって。最初にどういうカレーを作りたいかイメージを決めるから、それによって変える感じかな。食べ比べてっていうのは、同時にはしないかな。

-これまでの経験で、という感じですね。

スパイス小僧:そうそう。特にチキンカレーとかは大抵のフルーツを入れて試してきたからね。そういう経験から、このときはこうしよう、みたいなのを学んできた感じかな。

-ちなみに今回のCurry Stand vol.13のカレーには何を入れるんですか?

スパイス小僧:多分、だけど。白桃かパイナップル、多分どっちもかな。CMでよくはちみつとりんごとかってよく言うけれど、確かにカレーはフルーツを入れると美味しくなると思う。はちみつもよく使うし、あとヨーグルトも。あとナッツも好きだなあ。自分が作るカレーの個性は結構フルーツとナッツに左右されるかも。

-そうやって甘さに重きを置くスタイルは珍しいんじゃないですか?最近のカレーはやっぱりスパイスというか、辛さの方に重点を置くものが多い気がします。

スパイス小僧:どうなんだろう、やっぱりそうなのかな。スパイシーで辛いカレーが好きで、それでハマってやっている人も多いのかもね。

-スパイシーで辛いカレーにハマってやったら、やっぱり自分で表現するときもそっちに寄るのかもですね。

スパイス小僧:自分的にカレーは煮込み料理の一つという感覚が強くて、スパイスに寄り過ぎるよりも煮込み料理として表情をいかに出すかということだと思うし、ってなると食材ベースになるかな、と。

-なるほど。フルーツを使い甘さに重きを置いたカレーというスタイルを確立されているわけですが、カレーをうまく作れない・イメージ通りにならないときの、解決策はあったりするんですか?

(CITANランチでの白桃バターチキンも絶妙な美味しさだった。)

スパイス小僧:探す。色々足しまくって、探す。やっぱりカレーは後から調整がしやすいんだよね。他の料理は引き算のことも多くて、いかに素材を活かして無駄なことをしないかだと思う。でもカレーは足し算で、色々な味を重ねるごとに深みも増していく。何か足りないかな、と思ったら何か足せるし、何かを入れすぎたら他のも入れてバランスをとれるし。

-確かに、そうですね。

スパイス小僧:だから納得しないときは、基本的に足していく。足しまくる。

-てことは、基本的にいいものはできるってことですね?

スパイス小僧:どんなカレー作ってても最終的には「ああ、僕の味だな」ってなる。それで他の料理もしているのがやっぱり活きていて、何か足りないなと思ったときに何を足せばいいのか比較的すぐに浮かぶようになったな。

-料理以外で、カレーへのインスピレーションになっていることはありますか?

スパイス小僧:料理以外か・・。色の観点からだと、やっぱりファッションかな。僕は柄物とかがすごく好きで、そういう色の組み合わせとかはファッションからインスピレーションを受けている気がする。Nui. に来る人はおしゃれな人が多いし、海外の人が多いから個性的な服装の人も多いし。服って正解がなくて好みだし、料理もそうだしねっていう。

-通ずる部分はありますよね。

スパイス小僧:好きっていう人もいればこれは苦手っていう人もいるわけで、料理って結局いかに誰かを感動させられるかだと思うから、そこは突き詰めていきたいかな、と。

-だからこそさっき言っていたように、特定の誰かをイメージしてっていう。

スパイス小僧:そうそう。

-イメージの話でいうと、このインタビュー記事は半分くらい同居人に届けたいっていうのもあるんですが(笑)、それこそ同居人がキャンプが趣味なんですよね。趣味というか仕事というか、もはやキャンプを極めようとしているんですが。そういう意味ではキャンプありきでカレーが趣味ていうのが正しいですね。なんかそういう趣味と言えるものはありますか?

スパイス小僧:趣味ねえ、ないんだよなあ。まあ、お酒かな。お酒を飲むのが好き。でも一人ではあんまり飲まないんだよね、一人で飲むとしてもカウンターのあるお店に行って、みたいな。

-コミュニケーションありき、ってことですよね。

スパイス小僧:そうそう。他にはやったことないことをやるのが好きだけれど、趣味と言えるのはやっぱり酒かな。っていうのも、実は今こういうキャリアを歩んでいこうとかはそんなになくて、学生の頃はそういうのをきっちり考えていた時期もあったけれど、今は死ぬまでどういうビジョンを描くのかわからなくて。それで一回仕事から離れて考えようってなったときに、すごくしっくりきたのが「死ぬまで楽しくお酒を飲みたい」ってことだった。今までは若かったから年上の面白い人たちともお酒が飲めていたと思う。お酒が好きだったし、カレーという武器もあったし。でも今後自分が30代になったときに、自分がある程度面白い人間じゃないと、面白い人と一緒にお酒を飲めないんじゃないかと思うんだよ。そう考えることは、面白い人と楽しくお酒を飲むために自分がいかに面白い人間になるかを考えることに繋がって。

-なるほど。

スパイス小僧:楽しくお酒を飲むために自分は面白い人間になりたいから、今どう過ごそうかっていうのを考えたときに、30歳になる前に一回海外で生活してそれからNui. に戻ってくることで、もっとここで面白く仕事もできるし皆ともっと楽しくお酒も飲めると思ったんだよね。だから今後もこの考え方ベースで生きていくと思う。きっとどこかで、健康という壁にぶち当たると思うけどね。健康的にお酒を飲むためにどうしていかなければならないか考えるフェイズが待っているんじゃないかって、ドキドキしてる・・

-酒だけに避けられない・・

スパイス小僧:でもさ、健康とかって結構ブームだけど、結局毎日楽しく過ごしてれば健康なんじゃないかとも思うんだよね。

-まあ健康って、そういう精神的な部分もかなり大きいと思いますね。

スパイス小僧:一概には言えないけれど、自分は比較的丈夫な体だと思っているし、お酒もそれなりに飲めるから、あまり気にしてはいないけれど。どこかでそのフェイズが来るかなとも思っているから、意識するように、して、いきたい、です。

-(笑)。今オーストラリア以外で行きたい国はどこですか?

スパイス小僧:インドにはもう一回行きたいし、あとはやっぱりスリランカ、タイ。それ以外だと、ニューヨーク、メキシコ、あとスペイン、イタリア、イギリスもそうだし・・。どっちかっていうと、海外に行く目的は誰に会いたいかっていうのが大きくて、Nui. にいたおかげで結構色々な所に友達ができたからなんだけど。日本人でも海外で暮らしている友達も多いし、海外に行く目的は誰かに会いにいくことが多い、そういう意味ではどこかの国っていう垣根はない気もするし。うちの店もそうなんだけどさ。だからこそ英語っていうスキルは大事だな、と。英語できて得することって結構あるでしょ?

-そうですね、ありますね。

スパイス小僧:絶対損することはないよね。だから今回、英語圏で生活してくるってわけで。

-僕は逆にアイスランドにすごく行きたいですね。

スパイス小僧:なんで?銭湯?サウナ?

-それもありますけど、一番大きな理由ではなくて。単純に寒いところに滞在したくて。修行感がある、というか。

スパイス小僧:マジで?あ、そういえばここを一旦辞めてオーストラリアに行く前に、まずは4月から修行に行くんだよ。

-え?ガチの修行!?

スパイス小僧:ヴィパッサナー瞑想っていうのがあって。2週間くらいのコースで、誰とも目を合わせられないし誰とも会話できない。今後もこういう接客の仕事をし続けていくだろうから、そういう機会ってなかなか作れない。なんならNui. に住んでたから、誰ともコミュニケーション取れない機会なんてほぼなくて。瞑想期間中はお酒も飲めなくてタバコも吸えないらしく。

-そんなのがあるんですね。それを意識的にやろうっていうのがすごいです。

スパイス小僧:前から興味はあったんだけど、友達がこの前行っていたっていうのもあって、行こうかなって。多分一人の時間って東京に来てから本当にほとんどなくて。一人になりたいって思っても誰かしらいる環境だったんだけど、別にそれが苦痛だったわけでもなく、性格的にすごく向いているんだと思う。

-だからこそ、瞑想に行くんですね。

スパイス小僧:そういう時間も作ってみようかな、と。

-普段コミュニケーションに疲れるという感覚はないんですか?

スパイス小僧:もちろんあるんだけど、トータルで見たらないんじゃないかな。今日はちょっと下に降りないでおこうみたいな日はたまにあるけど(笑)。そういう日でも誰かしらに会うわけだし、もちろんコミュニケーションとってても疲れない距離感の人はいるわけだし。そういう人がスタッフの中にいて、仕事終わってからでもしょっちゅう飲むような人がいる環境だったのは、すごく救いだったかな。

-なるほど。僕の場合は書いているときは一人なので。

スパイス小僧:常に自分と向き合っている感じなのか。

-そういう意味ではコミュニケーションに飢えていて、実はそれもインタビューを始めた理由のひとつだし。

スパイス小僧:コミュニケーションに飢えてる、か。なるほど、面白いな。自分にはない感覚かも。

-飢えていると言うと響きがあれですけど、話したくてカフェとかバーとかに来る人もやはり少なくないと思います。コミュニケーションは、人間が人間らしくいるために日常レベルで欠かせないですから。Nui. はそんな風に人と人とをつなぐ場所であり、東東京でも代表的なホステルの一つですが、今後宿業界はどうなっていくと思いますか?オリンピックも控えてますが。

スパイス小僧:どうなってくんだろう。でも高価格帯は増えていくんじゃないかな。日本ってめっちゃ高いホテルって意外と少なくて、安宿がメインで増え続けてきたからね。あと例えばうちは宿プラスバーっていう形態だけど、今後も宿プラス何かっていうのは増えていくだろうね。あとはなんだろうな、宿のサブスクリプションとかも増えてるしね。もしかしたら、定住の文化はなくなっていくのかもしれない。拠点を複数もつ人が増えていくというか。

-なるほど。Nui. の東東京の拠点としての側面には今後も目が離せませんが、そんなNui. で2月24日にカレーイベント「Curry Stand vol.13」が行われますね。このイベントについて詳しく教えてください。

スパイス小僧:実はもう10回以上やっているイベントで、僕が入る前から行われたんだよね。東京マサラボーイズというユニットがいて、ケータリングでカレーを出しているんだよ。そんな東京マサラボーイズの高木さんがtoco. とかNui. とかにお客さんとして来てくれていて当時のスタッフと仲良くなったときに、イベントやりましょうってなって不定期のランチイベントとして始まったらしく。それで僕が入ってからはうちからもカレーを出すことになったんだよね。毎回ゲストもお迎えしていて、今回は新宿ゴールデン街のエピタフカレー。南インドの、しっかりスパイスの効いたカレー。エピタフさんは今回で3回目かな、実は。Curry Standは最近では100食以上出る人気のイベントで、15時までのイベントなんだけどありがたいことにその前になくなっちゃう。とにかく賑わう、楽しいイベントになっております!

(新宿ゴールデン街の間借りカレー「エピタフカレー」。インタビュアーも数回訪れているが、東京でも指折りの美味しいカレーだと感じた。24日のCurry Standはそんなエピタフカレーを新宿以外で食べられる貴重な機会でもある。)

-ワクワクが止まりません。カレーはあいがけを食べれるんでしたっけ?

スパイス小僧:全部でカレーは4種類あって、その中から2種類を選んであいがけにして楽しんでもらう形です。

-こういうカレーイベントって、一緒にやる人によって全然違う印象はありますか?

スパイス小僧:そうだね。毎回ゲストさんに何を作りたいかを聞いて、もちろん皆で話すんだけど、やはりホストとしてゲストが何を作りたいかを聞いた上でバランスをみて何を作るか決めたりする。ただ今回は自分が海外に行くというのもあって、自分が好きなものを作っていいと言っていただいて、今回はマトンのヴィンダルーを作ろうと。ていうのは、マトンの料理の中で、自分が作ったマトンのヴィンダルーが一番美味いんじゃないかと思ってて。

-マトンのヴィンダルーには相当な自信があると。

スパイス小僧:エピタフさんとかは特にしっかりスパイスの効いたパンチのあるカレーのイメージがあって、どちらかというと僕はマイルドなものを作ってきたんだけど、今回は最後の最後でガツンとパンチの効いたカレーを作ろうかなと思ってて。すごい楽しみ。

-甘さを極めたカレーという印象があっただけに、それは楽しみですね。それに、僕マトン大好きなんです。マトンみたいにクセのある食材を使うときのポイントは何ですか?

スパイス小僧:クセに負けないくらいの個性を出すことかな。クセをいかに消すかっていう調理をするというよりは、辛さとか酸味とか他の刺激を加えて、クセも含めて刺激的なまとまりを作るということかな。

-クセも含めての、刺激的なまとまり。なるほど。クセというとパクチーもかなりクセのある食材ですよね。パクチーは好きですかっていつもこのルーム681のインタビューでは聞いてるんですけど・・絶対に好きですよね?

スパイス小僧:大好きだね。

-好き嫌いがはっきり分かれると思って、いつも聞いてるんですよ。

スパイス小僧:確かに、嫌いな人いるもんね。なんかダメな人は遺伝子レベルでダメらしいね。

-てことは克服できないってことですか?

スパイス小僧:訓練しても無理らしいよ。

-それは非常に悲しいことですね。

スパイス小僧:ね、僕も大好きだから。でも、パクチーの根っことかだけならいけるんじゃないかな?

-根っこですか。

スパイス小僧:パクチーの根っこ美味しいんだよ。洗って茹でれば簡単に食べれるよ、甘みが濃くて美味しい。

-そうなんですね、今度食べてみよう。あともう一つ聞きたいのが、飴は最後までちゃんと舐める人か、途中で噛んじゃう人かってこと。

スパイス小僧:噛んじゃうね。我慢できない。

-結構序盤で噛んじゃいますか?

スパイス小僧:いや途中までは舐めてるけど、半分くらいになったら絶対噛んでると思うな。

-なるほど・・。

スパイス小僧:なんだこの質問!?

-(笑)。

スパイス小僧:でもこれで統計取れたら面白そうだね。パクチーは遺伝子だけど、飴は心理的作用が大きい気がするから。

-確かに。まあそんな飴舐めないですけどね、そもそも。でも舐めるとしたら、自分も噛むかなあ。罪悪感を感じながら・・。

スパイス小僧:確かにそんな舐めないけどね。でも舐めたら絶対噛んでると思う。龍角散ですら噛むね。

-のど飴の意味(笑)。そうだ、最後にインタビューっぽい質問を。カレーもやってなくて、今みたいな接客もやってなくて、他の料理もやってなかったら、何をやっていたと思いますか?

スパイス小僧:うーん、公務員じゃない?もともと公務員になろうと思ってたんだよね。意外と真面目だったから。でも好きな勉強を仕事にしてるんだったら、統計学を使う仕事は何かしらやってたかも。か、営業かなあ。

-カレーを作る上でもお酒を飲む上でもとにかく人・コミュニケーションに重きを置いているので、営業も向いてそうですね。コミュニケーションというと24日もかなり色々な人が来そうなので、カレーはもちろん色々な人との交流も楽しみですね。さて、そんなカレーイベント「Curry Stand vol. 13」への意気込みをお願いします。

スパイス小僧:何にしようかな・・。美味しいカレー作って待ってまーす、遊びに来てください♫

-24日は本当に楽しみです。今日はありがとうございました!

スパイス小僧:こちらこそありがとうございました!

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今回スパイス小僧をインタビューして、彼がいかにカレー作りに熱心であるか、そしてどれだけ人とのつながりやコミュニケーションを大切にしているかがわかった。カレーは現在最も自由を謳歌している料理ではあるが、結局のところ人と人とをつなぐツールの一つだと思う。カレー巡りをしていることで繋がった縁が多々あるインタビュアーはすでにそれを実感していたが、作り手側としてそこに大きな価値を見出しているスパイス小僧との対話で、改めてその大切さを知った。今後もスパイスカレーは色々な形で表現され、消費されていくだろう。多様性に満ちた東京食文化の中で、豪国生活を経たスパイス小僧がどんなカレーをアウトプットしてくれるのか楽しみでならない。が、とりあえずは2/24(日)、蔵前のNui. で美味しいカレーを食べよう。

-え、東京マサラボーイズのカレーは厚揚げこんな風に入るんですか?
スパイス小僧:高木さんはがっつりめに厚揚げを入れるって言ってたな。
-いやあ、厚揚げひじきも気になるしマトンヴィンダルーもマストだし、エピタフのカレーも食べたいし・・これは二種盛りを選ぶだけでも大変ですわ!

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Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE

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