スパイス小僧インタビュー。【前編】

スパイスカレーの勢いは止まらない。カレーはそもそも日本の国民食なわけだけど、ここ数年でスパイスへの注目度は高まり、カレーへの認識が変わったという人は多いはずだ。間借りカレーのお店も増えているし、表現方法に関しても色々と面白いものが増えている。カレーは今、一番自由を謳歌している料理だと思う。そんなカレー事情の中で、東東京におけるカレーの表現者として特に注目したいキーパーソンの一人が、スパイス小僧こと鈴木慎一郎氏である。今回はそんなスパイス小僧の作るカレーの愛食者でもあるインタビュアー佐藤が、彼の拠点である蔵前のホステルNui. HOSTEL & BAR LOUNGEにてパンチの効いたインタビューを仕掛けた。あとからジワジワと来るスパイシーな刺激と発見に富んだ対話を、ぜひ堪能してみてほしい。

– 本日はよろしくお願いします。本日はですね、カレーについてとにかく掘り下げていこうと思っています。普段はここNui. で働かれていますが、まずはこれまでのカレー歴を簡単に教えてください。

スパイス小僧:カレーを最初に勉強し始めたのは、笑夢カレーっていう福島のお店だね。福島駅のすぐ近くにあるお店なんだよ。

-今もありますか?

スパイス小僧:今もあるよ!このお店で3年(アルバイト時代入れたら5年)働いて、今東京に来て3年という感じだね。

-出身が福島なんですね。

スパイス小僧:そうそう。学生のときに笑夢にバイトで入って、そこからそのまま就職した感じ。元々めちゃめちゃカレーが好きだったから笑夢カレーに入ったわけではなくてさ、もちろん初めて笑夢カレーで食べたカレーのあまりの美味しさに感動したのは事実だけどね。あくまで当時カレーは家で食べるものだと思ってて。だから確かにそのとき食べたカレーが美味しかったのはあるけれど、それだけじゃなくて。笑夢はカウンターキッチンのお店なんだけど、スタッフの人たちがすごく面白くて。お腹空いてなくても、そのスタッフの人たちと話したくて笑夢に行ってたこともあるくらい。

-なるほど。コミュニケーションありきってわけですね。

スパイス小僧:それもあって笑夢カレーで働き始めて、もちろんカレーに関して勉強した場所でもあるけれど、カウンターの仕事をしたことで今に繋がっている部分がかなり大きいんだよね。

-入り方は人それぞれだと思うんですけど、カレーめちゃくちゃ研究したいからカレー屋に入ったというよりも、そういうコミュニケーションベースのモチベーションがあったというのは、まさしく人柄に現れていると思います。

スパイス小僧:もちろんカレーの仕事も超好きなんだけど、同じくらい接客の仕事がすごく好きで。どっちもこれからもやり続けていくんだろうなあって。

(2019年1月末に蔵前のThe Bridge Bar&Loungeで行われた「蔵前ナイト」にてカレーを振る舞うスパイス小僧。)

-春から海外に行くと聞いてましたが、今後のビジョンはありますか?

スパイス小僧:この会社に帰ってきたいと思ってる。あまり自分でカレー屋の店を持ちたいっていう願望は今のところなくて、でもカレーを作れるっていうことが大きな武器だとは思っているし。この会社で働いている人ってわりと個性的な人が多くて。

-わりと、どころじゃないですよ多分。もちろんいい意味で。

スパイス小僧:ここで働きながら違うことしているスタッフもたくさんしているし、なんなら会社がそれを奨励してくれてる。CITAN(Nui. の姉妹店)でカレー出していたのも、最初は会社の業務としてのシフトだったけれど、途中から自分が出店料を払って出店して、その代わりに売り上げを直接的に得られる形態に変わって。

-そのシステムはすごいな。

スパイス小僧:会社としてもポップアップでいろんな挑戦をして欲しいという思いがあって、この会社の環境を使っていいから、自分で経営をする感覚を学んでほしいということだったんだよね。その入りとしての、CITANランチだったというか。すごくいい経験だったな。

-会社に所属はしつつも、別枠というか個人でもやりたいことをできるシステムというのは、素敵ですね。

スパイス小僧:いわゆる副業ということだと思うんだけど、一つの組織に属している以外で稼ぐ手段があるっていうのはすごく強いと思うし、なんならそうすることでどっちも楽しめると思う。

-どちらにも還元できますもんね。ウィンウィンというか。

スパイス小僧:この働き方が僕的にはすごくしっくりきていて、海外に行きたいっていうのも、この会社で長く働きたい前提があるからなんだよね。

-なるほど。

スパイス小僧:最初は英語が全然できない状態でこの会社に入ってすごく苦労したっていう経緯があって、でもカレーが作れたおかげで自分の個性が確立できたっていうか。そのことにはすごく感謝しているし、だからこそもっと色々なことができるようになりたいなって思ってて。

-戻ってきたときにやることが具体的なのは、海外に行く人として珍しいんじゃないかと思います。なんとなくで海外に行く人の方が多いんじゃないかなって。

スパイス小僧:そうなのかな。確かに、外の環境に出て何かが変わるかも、と思う人はいるのかも。

-そういう感覚の人は少なくないはずです。

(スパイス小僧の働く蔵前のNui. HOSTEL & BAR LOUNGE)

スパイス小僧:行く目的は結構はっきりしているかもしれない。それにオーストラリアに行く間に、他のとこにもいけるなら行きたいとも思っているし。

-これまでの海外経験はどんな感じですか?

スパイス小僧:20歳のときにインドに行ったのが初めてかな。ちょうどその頃は笑夢の常連になっていた頃で、社長に何月何日ランチ入れる?て言われたらあ、はいオッケーです、みたいな関係性になってて。ちょうどカレーを好きになり始めていた上に、その年は被災していたっていうこともあり。それでふとガンジス川を見てみたいな、と思ったんだよね。大学も避難所になっていたから学校が始まるのも遅れていたしで。

-そうか、ちょうど震災のときか。

スパイス小僧:カレーを作れるようになってからはインドに行ってないから、また行きたいなあとは思ってて。今行ったらまた違う感じ方をするだろうし。

-絶対そうですね。初めてのインドはどれくらいの期間行ったんですか?

スパイス小僧:2週間ちょっとかな。ガンジス川のあるバラナシっていう所に10日間くらいいて。初めての海外っていうこともあってかなり刺激的だったな。

-初めての海外がインドっていうのは、刺激的すぎる気もします。

スパイス小僧:おかげでどこにでも行けるようになったな。旅慣れしている人でもインドはちょっと緊張するっていう人もいるようだし。まあ当時20歳だったっていうのもあるんだけど。

-勢いで行けたと。

スパイス小僧:完全に勢いだね。

-そのときは美味しいインドカレーをたくさん食べましたか?

スパイス小僧:食べた食べた。でもまあ普段笑夢で美味しいカレーを食べてて、それがずば抜けて美味かったから、インド行ったらどこでも美味しいカレーは食べれたけれど、まあでも笑夢のカレーはやっぱりうまいなーって。

-笑夢のカレーの美味しさを再確認したんですね。

スパイス小僧:そう。福島って実は人口比率で一番カレー屋が少ない所らしくて、カレーの勉強をしたいなーって思ったらやっぱり東京に来た方が効率がいい。それでカレーの勉強のために東京に来るようにもなって、実はそのとき拠点にしていたのがこのNui. とtoco. だったんだよね。

-そうだったんですね。東京で好きなカレー屋はどこですか?

スパイス小僧:幡ヶ谷の青い鳥と押上のスパイスカフェ、それから新宿ゴールデン街のエピタフカレー。

-エピタフは2月24日のイベントを一緒にやるお店ですね。青い鳥も行ったことがあります。2店ともすごく美味しいですよね。スパイスカフェは行ったことがないので今度行ってみます。

スパイス小僧:まあ美味しいところをあげたらキリがないんだけれど、特に感動が大きかったのはこの3つかな、と。

-なるほど。

スパイス小僧:あと外苑前にあるヘンドリクスもおすすめ。ああ、あと神楽坂の想いの木も。ここはデートでおすすめのカレー屋。ランチタイムに行っても女性のお客さんがすごく多いし、雰囲気もすごくいい。というか美味しいカレー屋さんあり過ぎて選べない!(笑)

-そうですよね(笑)でもすごく参考になります。ヘンドリクスも想いの木も行ったことがないので、早く行かなくちゃ。逆に東京以外だとどこのカレーが好きなんですか?そもそも大阪こそスパイスカレーの聖地だと思うんですけど。

スパイス小僧:もちろん大阪も行ったことはあるけれど、大阪よりは京都の方が多いかな。 ほら、Len(Nui. 、CITANの姉妹店)がある関係で。京都だと、森林食堂ってとこがおすすめ。

-森林食堂。京都行ったら必ず行きます。実はまた京都行ったことすらないので、早く行きたい。この前インタビューした091君も京都出身だし。

スパイス小僧:京都のカルチャーもすごく好きなんだよなあ。梅湯っていう銭湯があるんだけど、ここは二階がタトゥースタジオになっていて、タトゥーNGの銭湯はまだ多い中で、逆にタトゥーめちゃくちゃOK、むしろタトゥー屋一緒にやっちゃってるみたいな。

-それすごいな。まさに逆手にとって、というか。

スパイス小僧:廃業するってなったときに僕らと同世代くらいの人が立ち上がって続いている銭湯らしくて。今では西の方の銭湯好きな人だと知らない人はいないくらいの場所になってるらしい。

-そんな京都も含め関西でももちろん関東でも今となっては、美味しいカレーを楽しめる場所は増えている気もします。そんな中で、自分のカレーを食べるときあるいは外でカレーを食べるときに感じる、美味しいカレーの重要なポイントは何でしょうか?カレーを美味しいと感じる重要な基準、というか。

スパイス小僧:一番大事だと思うのは、いかに米が進むかということ。ナンの文化もあるしビリヤニもすごく好きなんだけど、やっぱりカレーにおける米っていうのが好きで、そのカレーでどれだけご飯を食べられるのかっていうのは大事かな。あと、色。

-ほお、色。

スパイス小僧:香りがいいのはカレーである以上当たり前というか、だから香りだけじゃなくて見た目の色、パッと映える感じというか。お皿の見せ方も関わってくるけどね。最近では二種盛りとか複数のカレーを食べるのも流行っているけれど、結局カレーの面白さの一つって鮮やかな色を出しやすいってことだと思うし。

-カレーは映えやすい料理である、と。

スパイス小僧:あと、複雑さもそうか。辛さと甘みと酸味と塩味と苦味っていうかエグみっていうか。やっぱりそのバランスがいいと「うわこれ美味えな」ってなる。甘さとか酸味にも実は何層かあるし、まあ辛さだと比較的わかりやすくて、例えば「食べているうちに後からジワジワ来る辛さ」と「食べて最初にガツンと来る辛さがあるけど後味は甘い場合の辛さ」は違う、みたいな。

-なるほど。

スパイス小僧:一口の中でも味の変化を楽しみやすいっていうのがカレーのもう一つ面白いところだと思うし。こういう複雑さがあるカレーはやっぱり感動するし、自分で作っててもこの部分がうまくいけば「おお美味えな」ってなるかな。

-その複雑さのバランスを整えるためには、作る上で何が重要になるんでしょうか?

スパイス小僧:一口の中で色々な味がバランスよくまとまっているってなると、やっぱり調理工程の中で辛さをどこで加えるかが鍵を握るかな。例えば最初にテンパリングする時点で辛さをある程度入れておくと、食べたときに後から辛さがジュワーってきやすくなる。その分、後半の工程であまり辛さのスパイスを足しすぎずにするのも重要で。逆に後半に辛さを加えると、最初食べたら辛いんだけど、あとから甘みが広がる感じの味わいになりやすい。

-なるほど。重要なアドバイスとして同居人に伝えておきます。

スパイス小僧:だからまず自分がどういうカレーを作りたいのかそのイメージを明確にして、あとはそのためにどういう調理工程にしなきゃいけないかを考える感じかな。

-つまり「調理の仕方」を使い分けるという感じですね。

スパイス小僧:そうそう。あと、甘さに関しては何層も入れるようにしてる。基本的に自分が甘いカレーが好きというか、辛すぎるカレーが苦手ということもあって、甘さで複雑さが出ていると美味しいと感じやすいと思っていて。

-でも実際にこれまでCITANランチや蔵前ナイトなどで食べてきて、本当に甘さのクオリティがすごい、というか甘さを極めているなと感じました。

スパイス小僧:あ、本当?それは嬉しい。本当に甘さは大切にしていて、フルーツもよく使うしヨーグルトも使うし、トマトも煮込むとしっかり甘さが出るし。あとはハチミツとかナッツとかも入れることがあるし。とにかく甘みを出す方法って色々あると思うんだけど、色々な角度から甘さを加えると、甘みに深みが増すんだよね。それは毎回意識していることかな。

-なるほど。甘さを極めたカレーの背景にはそこまでのこだわりが。

スパイス小僧:だから結構バターチキンが得意で。笑夢のバターチキンがめちゃめちゃ美味かったということもあるんだけど。

-バターチキンってイメージ的には日本人もよく知ってるし、だからこそなのかバターチキンがめちゃめちゃ美味いお店は珍しいと思っちゃうっていうか。バターチキンがすごく美味しいお店って出会いづらいイメージがある気がするんですよね。

(蔵前ナイトで提供されたスパイス小僧による檸檬バターチキンカレー。甘旨なバターチキンに檸檬の酸が加わったとき、こんなに美味しいものが存在するのかと思わず天を仰いだ。)

スパイス小僧:みんな知ってるからこそ、ってことか。

-でもこの前の蔵前ナイトで食べた檸檬バターチキンもすごく美味しくて、一緒に行った友人たちも感動していました。

スパイス小僧:ありがとう。結局笑夢のバターチキンが一番うまくて、あれを超えるバターチキンにまだ出会ってなくて。僕はカレーを作るときにあまりレシピを作らないようにしてるから、毎回違うカレーができるんだけど、まだ自分の中の一番は笑夢のバターチキンで、これをどうやって超えようかなっていう。

-なるほど、原点であり頂点である、と。

スパイス小僧:そこにいかに近づけるかを意識しつつも、だからこそ逆に対極のバターチキンを作ってみたり、とか。色々試してるよ。あるレシピのこの部分を使って、ここは変えたらこうなる、とか。

-まだ超えたっていう感覚はないんですか?

スパイス小僧:うーん、そうだなあ。もうなんか分かんなくなってるかも(笑)

-(笑)

スパイス小僧:なんていうんだろう、初めて食べたときの感動ってなかなか忘れられないっていうか。

-確かに、不滅感はありますよね。

スパイス小僧:笑夢のバターチキンに比べて調理時間が短いとか原価的にかなり安いものだとかなら、ほぼ近い味のものはできるんだけど。なんならむしろ僕が今やれるレシピを持っていったほうが経営的にいいんじゃないかくらいの(笑)

-なるほど (笑)

スパイス小僧:そうやって自分なりのバターチキンの色々な研究をしていくと、自分の中ですごくハードルが上がっていって。

-やっぱりカレーも、ビジネス目線で考えるとまた話は別になりますよね。美味しいだけじゃなくてコストの部分が絡むと。それこそ今同居人もカレーを作ってて、ちょっと最近公の場で提供できるかもしれないんですけど、そういう場面で利益を出そうと思ったら時間をかけてこだわり抜いて美味しいかどうかだけじゃなく、対時間・対原価とかの要素も無視できないと感じました。

スパイス小僧:確かにそうだよね。特にバターチキンって、実は原価が高いんだよね。

-美味しいものを提供しようと思ったら、利益はあまり見込めないもんですかね?

スパイス小僧:そんなこともないとは思うけどね。安くおさえようと思ったら安くおさえて作れるカレーもあるわけだし。だからこそ最近あいがけが流行っているかなとも思っていて、コストがかかるやつとあんまりかからないやつを組み合わせてバランスとれるし。実際にCITANでランチやっていたときは、絶対に2種類出していたし。

-あいがけカレーは見た目の綺麗さだけでなく、コスト的なバランスにもメリットがあるんですね。

スパイス小僧:あと、カレーを作る上では、根本的にインド料理とはどんなものかっていうのを考えると面白いかも。イタリアンとか和食とかって食材のよさを活かすみたいな考え方があって、でもインドの料理って基本的に食材があまりよくない状態にあるということもあって、そもそもあまり美味しくないものをスパイスとかを使っていかに美味しく食べるかっていう文化だと思う。

-確かに、そう言われればそうですね。

スパイス小僧:日本の食材を使えば、そこそこ美味くなるっちゃ美味くなる。だって食材がいいからさ。だからこそというか、ルーツを探るとインド料理って他の料理に比べてやっぱり違うものだなと思うよ。そしてだからこそ原価をおさえても美味しいカレーを作ることは十分可能だと思うし、すごく面白いとも思うな。

-やはりカレーを作る上では食材やコストに関しての葛藤もあることと思います。今後カレーを作っていく上で、自分の中での課題みたいなのはありますか?

スパイス小僧:それはねー、ある。

(後編へ続く)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする