リーテイル・セラピー。

英語には、リーテイル・セラピー(Retail Therapy)という言葉があります。これは、「落ち込んでいるときなどに気分をよくすることを目的として買い物をすること」を指します。つまるところ「ストレス発散としての買い物」というわけです。

大抵の人は、買い物をして幸せな気分になったことがあることでしょう。無意識的にせよ意識的にせよ、買い物でストレス発散をしたことがある人は少なくないはずです。世の中では運動やカラオケ、バードウォッチングなどさまざまなストレス発散方法が実践されているようですが、買い物も有効的なストレス発散方法のひとつになり得ます。

実際に店におもむいてただ見て回っただけの場合と何かを買った場合では、何かを買った場合の方が幸福感や自己コントロール感を感じやすいという調査結果もあるようですね。確かに、買い物をすることでより「生きている」感じは高まる気がします。やはり消費というのは誰の人生からも切り離せないわけで、生きるとは消費することであるとも言えるために、消費することで感情が動かされるのは納得がいきます。

一方で、ストレス発散としての買い物には、醜悪な一面もあります。お金を使うことでストレスを発散できるからこそ、お金を使いすぎてあとあと経済的に苦しむ、それが精神的な苦しみに繋がることも少なくないはずです。買い物依存症になる危険性だってあります。つまり、気をつけなくてはいけないんですな。

かと言って、予算の範囲内での買い物で、本当にストレス発散できるのでしょうか?あらかじめ決めておいた範囲を超えるからこそ、悲しみに打ち勝てるのではないでしょうか?春先のアイテムが欲しくて買い物に行く、欲しいのは白いブラウスだったのに、それにぴったりなチェックのスカートを見つけてしまった、だからそれも買う、ああ最高人生捨てたもんじゃない、飛び跳ねたいなあ、ぽよんぽよん。

こうして1万円の買い物が2万円になる。クレジットカードの請求額が増える。でもそれを支払うのは1ヶ月後、それまでは束の間の幸せに浸れる。悲しみに打ちひしがれていたのが嘘だったように、開放的な気分に包まれて性格も変わったように明るくなる・・リーテイル・セラピーのこの魔法的とも言える期間を、ハッピーエンド繋げられるかバッドエンドに繋げられるかは、あくまであなた次第でしょう。

さて、アリアナ・グランデが2019年1月に”7 rings”という曲を発表し、その曲を含めた”thank u, next”というアルバムを発表しました。アルバムレビューはこちらをご覧ください。そんな”7 rings”は「リーテイル・セラピー」を一つのテーマとした曲になっています。

サウンド・オブ・ミュージックの「私のお気に入り」を大胆にサンプリングした同曲の歌詞は、アリアナが6人の女友達に指輪を買ってあげたという実体験に基づいています。
 

そしてアリアナはこの曲で、ラッパーがいつもそうしているように、自分がセレブであり金を有り余るほど持っていることをひけらかします。ヒップホップラバーにとってこの曲は、アリアナが音的にもヒップホップに接近していて嬉しかったのですが、「リーテイル・セラピー」に関する重要な示唆がこの曲には含まれています。その一つが、

Whoever said money can’t solve your problems
Must not have had enough money to solve ‘em

 (お金で解決できないっていう人は十分なお金をもっていないだけ)

という部分です。これを曲解すると、リーテイル・セラピーで予算なんかを気にしていたらそりゃ悲しみに打ち勝つことなんてできないわ、ってことにもなります。

ではそもそも貧乏な人にリーテイル・セラピーは向いていないのかというと、まあそうなのかもしれませんがストレスをどのくらいの買い物で発散できるかは「これまでの経験で得たことのある満足度」とも関連していそうですから、特にクソセレブからクソ貧乏に落ちぶれた人にとってリーテイル・セラピーは辛いかもしれませんね。 

では、リーテイル・セラピーを成功させるためにはどうしたらいいのか。僕が個人的に思う重要なことは、二つあります。それは、下記の通りです。

散財は悪いことだという固定概念からの脱却
・かなり低めの設定から直前での予算引き上げ

まず一つ目の「散財は〜」に関して。どうしてもお金を使うことに対してためらいが生じてしまうと、せっかく買い物でストレスを発散できる可能性があっても、それを潰してしまうでしょう。なのでまず「散財することは悪いことではない、ていうか善である」と思うことが重要です。貯金と同時にストレスも溜め込んでしまうことは人生において本当にいいことなのか?ということを自分自身にしっかり問いかけましょう。買い物をしてむしろ経済も動かしていたぜるんるん♫となった方が健康的じゃないでしょうか、っていう。

二つめの「かなり低めの〜」に関しては、自分を騙すちょっとしたテクニックです。例えばブラウス&スカートで2万円の買い物をしようと「心の底の本当の本心」で決めていたとします。これはもちろん、自分が経済的に破綻しない範囲だと実は分かっています。しかし、その「ちょっと外側のまあまあ本心」から「今日の買い物は1万円まで」と脳に指令を出しておきます。この「まあまあ本心」ちゃんはいわば見栄の領域であり、ここだけで思考するとそれこそ友人に馬鹿にされないように無駄遣いして後悔することもあります。しかし、その内側の「本当の本心」を目覚めさせておけば、正当な自己満足のための買い物ができます。

さて、いざ買い物をして選ぶというときに、ブラウスはそもそも探しにきていたけれどスカートはたまたま一目惚れしたものがあった振りをし、どっちも買っちゃおう!となりましょう。もうそのときにはブラウスとスカートどちらをも手に入れられる喜びに打ちひしがれており「外側のまあまあ本心」の罪悪感などは姿を見せることができず、心の底の本心は、経済的破綻に陥らずかつ適度なストレス発散も行えたことにほくそ笑んでいます。

そんな外側だの内側だの、全部自分なんだから器用にできないという反論もありそうですが、この理論はあくまで例であり、別に作用機序はどうでもいいんですよ。しかし、ただ一つ言えるのは、自分を騙すのはそんなに難しくないってことです。一方で、変な罪悪感や余計なストレスを感じてしまいやすいのも人間ですから、ちょっとしたマインドセットの転換で、「実にうまく買い物によってストレスを発散できる」ことでしょう。どう自分に言い聞かせるかは、個人によって異なるので、セルフ言い聞かせ上手になって圧倒的なハピネスを目指しましょう。

個人的見解となりますが、スニーカーヘッズとしてはやはり、リーテイル・セラピーの中でもスニーカーを買うとストレス発散になるなと感じます。そして文筆家としてやはり読書も好きで本を買うことも多いです。そしてスニーカーというのは履かずに眺めているだけでも楽しい上に履きすぎて汚したくない気持ちもある一方で、(絵本や写真集ではなくビジネス書や小説などの)本は眺めているだけではどうしても満足できません。しかし、ストレス発散のために本を5、6冊衝動買いしてしまうことがある。そしてそれを読んで何か一つ成長した自分を想像し、実際には成長しないままで終わる。

そのまま仕事に忙殺されればいいものの、あるときふと、買ったまま読んでいない本の存在を思い出す。それによって、自分は本を買っただけで満足してしまう大馬鹿者だと自己嫌悪に陥る。経済的なツケ以上に精神的なツケが回ってきて、さあ大変。もうとにかく読み終わってスッキリしたい気持ちが強いためにたとえ読み始めても本の内容にあまり集中できず、劇的に人生観を変えてくれる名ゼリフを読み逃す・・

ということは案外あるので、気をつけようと思います。つまり、僕の場合は、リーテイル・セラピーの内容はスニーカーのみに限定しようと思います。このように、ちょっとしたルールを設けた上でリーテイル・セラピーを行えば、大抵の悲しみには打ち勝てます。とか無責任なこと言っちゃいます。ということで、買い物して人生楽しもうぜ!

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